「失敗を恐れず描くことが、自分を広げてくれる」(後編)
−庭師・木村博明さんが考える理想のアイデアノート

前回、自由なアイデアを生み出す手描きスケッチの魅力を語ってくれた、庭師の木村博明さん。後編となる今回は、木村さんの理想から生まれた『BODONI 造園計画ノート』に込められた思いと、おすすめの使い方を伺います。その背景には、木村さんが考える手描きの喜びがありました。

失敗を許し、ひらめきを促す『BODONI造園計画ノート』

改めて「BODONI造園計画ノート」について教えてください。開発ではどのようなリクエストを出したのですか?

最初に念頭にあったのは、表紙を立てて2画面で使えるノートですね。庭づくりでは、現場の写真や図面を見ながら、これからつくる庭のイメージを考えていきます。ですから、表紙を立てた面に写真や図面を置き、それを眺めながら手元でスケッチを描けたら楽だろうと。そのために、表紙が自立するようにして、そこに写真や図面を挟み込めるようにしてもらいました。

ノートの表紙は滑り止めつきなので、表紙を立てた状態でも安定して自立する。
縦横のリング製本で、2種類の紙が自由に重ねられるようになっていますね。

筆記用紙と、トレーシングペーパーの2種類です。筆記用紙に完成イメージをスケッチし、トレーシングペーパーを重ねて上から描き足していく使い方です。もし描き損じても、上のトレーシングペーパーだけ捨てて、簡単に描き直せたら良いなと。リング製本なら簡単にちぎれますからね。前回お話ししたように、スケッチでアイデアを生むには、失敗を恐れずに描くことが重要ですから。

間違えたり修正しながら、手描きから発想を促すノートなんですね。

いちから描き直すのって大変じゃないですか?思いつきで描いているのに間違えるたび最初からやり直すのは面倒ですし、それがストレスで描くのをやめちゃうこともありますよね。だから、このノートは思いつきをどんどん描いて欲しいですし、もし間違えたとしても1枚破くだけでいいんです。

紙は筆記用紙とトレーシングペーパーの2種類。それぞれの紙が縦横のリング製本で綴じられ、好きな場所で重ねられる。
そう考えると気負わず自由に描きたくなります。

庭って、僕の作品ではなくて、あくまでお客様が暮らす場所なんです。眺めて楽しく、お客様の日々を豊かにしてくれる空間を作ることが目的です。スケッチはあくまで、そのためのアイデアを生み、イメージを形にするプロセス。だからスケッチの段階ではいくら間違えてもいいんです。

空間を捉えるためのアイデアノート

実際に使ってみた感想はどうですか?

使用感はすごくいいですよ。marumanさんが描きやすい紙を出していることは以前から知っていましたが、使ってみて改めて描き心地の良さを実感しています。紙の出し入れもスムーズですし。高級感もあるのでお客様との打ち合わせでも使えますね。安っぽいノートを仕事に持っていくのは気が引けますから。

サイズは持ち歩きやすいA4。表紙は雨や汚れに強い、丈夫なPP素材で、外での庭作業でも安心。
実際の庭づくりでは、どのような使い方がおすすめですか?

これから庭をつくる場所の写真を立てた表紙に載せて、それを見ながら手元の紙にアイデアやスケッチを描いていくという使い方をイメージしています。写真を見ながら描くと、質感やもののたたずまいを捉えやすいですよ。あとは、トレーシングペーパーを写真や図面に重ねれば、建物の外枠といったアウトラインを描き写すのも簡単です。

空間を平面の紙に描き起こすのは難しく感じますが、これなら初心者でも簡単そうです。

あとは、庭の完成イメージや図面にトレーシングペーパーを重ねて、「ここに石があるとどうだろう」とか「こっちに灯籠を置いてみよう」と描き加えていくと、完成イメージを膨らませやすいですね。庭づくりに限らず、空間のアイデアノートとして使ってもらえると思います。例えば、建築や内装はもちろん、模様替えやテーブルコーディネートを考えるときにもいいですね。商品開発のアイデアスケッチにも便利だと思いますよ。デザイン画にトレーシングペーパーを重ねれば、寸法や追加のアイデアを書き足していけますから。

筆記用紙にトーシングペーパーを重ね、アイデア要素を描き加えてイメージを膨らませる。

手描きには、デジタルにない想像の振り幅がある

今はデジタルで描くことも一般的だと思いますが、木村さんが手描きにこだわるのはなぜでしょうか?

確かにパソコンを使う方が作業効率もいいですし、情報も正確です。でも、手を動かさないパソコン作業だと、描いたものがちゃんと頭に入っているのか不安になるんです。手描きなら、実際に手を動かすことで脳が刺激されますし、描いたものが頭に残りますからね。

描くという行為が自分自身へのインプットにもなるんですね。

それに、デジタルは正確な分、振り幅が小さい感じがするんですよね。手描きの方がいい意味でふわっとしていて曖昧というか、想像する余地が大きい。デジタルの厳密さに囚われると、自由なものづくりができなくなってしまうと僕は思います。やっぱり職人気質なんでしょうね、手を動かして庭をつくる、ということが何より好きで。スケッチを描くのは、アイデアを生みイメージを共有するためのプロセス。そこでいくら間違ってもいいし、実現できるかわからなくてもいいんです。のびのびと描くことが発見に繋がるんですから。だから僕は睡眠時間を削っても(笑)、手描きにこだわりたいんです。

 

《プロフィール》

 

木村博明(きむら・ひろあき)

庭師

 

千葉県市川市に生まれ、高校卒業後に庭造りの道に入る。現在は、株式会社 木村グリーンガーデナーの2代目代表を務め、商業施設から個人宅まで、和洋を問わず多くの造園を手がける。2019年 にはテレビ東京『TVチャンピオン極 〜KIWAMI〜』ガーデニング王選手権で優勝、初代チャンピオンに輝く。『木村博明の10万円でできるDIY庭づくり』(ブティック社)など著書も多数。

http://k-gg.jp/