モデル・女優 三戸なつめ(前編)
- Sketch Creators Vol.2
「モデルの仕事から、いろいろな道が拓けていく」

sketch(スケッチ)とは、人物や風景などを描写すること。連載インタビュー企画「スケッチクリエイターズ」では、素晴らしいクリエイションを生み出すさまざまなクリエイターへのインタビューを通じ、彼らの創作の背景を言葉と写真で写しとっていきます。

第2回目にご登場いただくのは、モデルや女優などさまざまな分野でマルチな才能を発揮する三戸なつめさん。幼い頃からファッションや絵が大好きだったという三戸さんは、服飾の専門学校に通っていた2010年に読者モデルとして活動をはじめ、青文字系雑誌のカリスマモデルとして人気を博しました。前編では現在の“三戸なつめ”を形成するまでの背景に迫ります。

「2〜3年前から、たまに前髪を伸ばすようになったんです」と三戸さんは話します。

子供服のデザイナーを志した少女時代

三戸さんといえば“眉上バング”が印象的でしたけれど、長めの前髪も素敵ですね。

前髪、めっちゃ伸びました(笑)。最近は「切りたくなったら切ろうかな」というスタンスです。2021年で31歳になったのですが、だんだんと大人っぽいファッションや女性らしいスタイルを取り入れたくなって、それに合わせて髪型も変わってきた感じですね。

最初に前髪を切ったのは中学1年生のときなんですよ。JUDY AND MARYのYUKIさんにすごく憧れていて、ぱっつんの前髪を真似しようと思ったんですね。そうしたらYUKIさん以上に短くなってしまって(笑)。でも自分的にはその短い前髪がけっこう気に入ったんです。それからずっと前髪は短かったかな。SHAKALABBITSのUKIさんやモデルのYOPPYさんなど、当時好きになった女性アーティストさんやモデルさんがみんな短い前髪で、影響を受けた部分も大きいと思います。ファッションも真似ていましたし、古着が好きになったのもその頃からでした。

取材当日、三戸さんのネイルはネックレスと同じ水色でした。
ファッションにご興味を抱くようになったのは、いつ頃からですか?

小学生の頃からです。お母さんとお買い物にいっても、服は自分で選んでいました。私服の中学だったので「かわいい服を着たいな」と思うのが早かったのかもしれません。私は奈良県出身なんですけど、「ならファミリー」というショッピングセンターに入っている「WEGO」とか、商店街にある古着屋さんでよく買っていましたね。

高校生になると服のリメイクが流行ったこともあり、「自分で洋服をつくりたい」と考えて服飾の専門学校へ進学したんです。矢沢あいさんの漫画『ご近所物語』も大好きでした。山のようにいるであろう「実果子(デザイナーを目指す『ご近所物語』の主人公)になりたい!」と願う女子の一人だったのですが、現実はなかなか難しかったです(笑)。

三戸さんが愛用している「SINA SUIEN」の刺繍バッグ。
(笑)。ですが実果子ちゃんはすごくお洒落でかわいいので、三戸さんと共通する部分も多いように感じます。服飾の専門学校では子供服を専攻されていたそうですね。

はい。子供服の方がデザイン画を描いていて楽しかったんです。自分にとって紙の上はとても自由な場所でした。素材もパターンも、深く考えずに描けるのがデザイン画です。熊の帽子をかぶせたり、ズボンのポケットを動物のモチーフにしたり、柄と柄で組み合わせたり、子供服は想像力がどんどん膨らんでいくんですね。小さい頃は「将来は絵を描く仕事がしたいな」と思って漫画家を目指していましたし、もともと絵を描くのも好きだったんです。

学生時代、マルマンのクロッキーブックでデザイン画を描いていたそう。

本格的に取り組むと決めたモデルの仕事

三戸さんは雑誌の読者モデルからキャリアをスタートされていますが、はじめて雑誌に掲載されたきっかけをお聞かせください。

19歳か20歳くらいのとき、学校帰りに大阪・梅田の街をウロウロしていたら、『関西girl’s style exp.』という雑誌に声をかけてもらったのが最初です。自分が読んでいた雑誌だったので、めちゃめちゃ嬉しかったですね(笑)。そこからちょこちょこ雑誌の企画に呼んでもらえるようになって、気がついたらファミリーになっていた感じです。だから「今日から読者モデルとしてお願いします」と言われたわけではないんですよ。たぶんほかの読者モデルのコたちも、私みたいな流れだったんじゃないかなと思います。

上京当時を振り返る三戸さん。ご家族も応援してくれたそうです。
子供服のデザイナーになるという目標から、将来はモデルとして活動しようと決意されたことに、迷いはなかったのでしょうか?

読者モデルになってからは「東京で芸能活動をしてみたい」という思いが強くなっていたので、迷いはありませんでした。今の事務所に「東京に来る気はありますか?」と聞かれ、「あります!」と(笑)。事務所の先輩モデルである武智志穂さんが女優業やアパレルブランドのプロデュースなど幅広く活動をされていて、「読者モデルからのスタートでも、努力次第でいろんな道が拓けるんだ」と気付かせていただけたことも、きっかけのひとつですね。

だけど私がモデルになるなんて、想像すらしたことがなかったんです。身長は153cm。一般的なモデルさんのイメージと比べたら、背が低すぎます。でもファンのコたちが「小さい人が服をかわいく着こなすためのポイントがわかるので、すごく参考になります」と言ってくれていたんですね。そんな言葉の数々も自分のやりがいにつながっていました。モデルの仕事はもちろん、絵を描くことにも、演技をすることにも、歌うことにも興味があった私には、芸能活動がぴったりだったんです。

三戸さんは学生時代から大の文房具ファンだとか。

歌手デビューが自身の転換期に

東京に拠点を移されてからは青文字系の雑誌を中心にご活動され、現在はモデルや女優を中心にご活躍の場は多岐にわたっています。ご自身の中でターニングポイントとなったお仕事はありますか?

2015年に中田ヤスタカさんプロデュースによる『前髪切りすぎた』で歌手デビューしたことです。「前髪を切りすぎちゃっているコ」として、これまで接点のなかったたくさんの方に覚えていただくことができました。前髪はあえて短かくしていたので、切りすぎていたわけではないんですけど……(笑)。

メジャーデビュー曲『前髪切りすぎた』は、11人のクリエイターによる全11本のミュージックビデオが制作されて話題に。

 

それに以前は読者モデルを通じた世界でしか、人と関わっていなかったんです。雑誌の現場はみんな仲良しでしたし、ピリッと感とかはほとんどなくて。でも音楽業界やテレビは現場の空気がぜんぜん違くて、いろんな面で鍛えられたと思うんです。

たとえば私は人見知りをしてしまうタイプなので、大勢の中でしゃべるのが苦手だったんですね。ついつい「場を盛り上げなきゃ!」と話を盛ってしまい、「そこまでじゃないよな……」とあとで後悔したり(笑)。自分の心に嘘をつくようなことを、知らず知らずのうちにしていたんです。そうするとやっぱり気持ち的にもしんどくなる時期もあり、頑張り方が空回りしてしまっていたんですね。

だけど今となっては「いい経験をさせてもらったな」と思いますし、成長できた部分がいっぱいあります。苦手なことは改善していけるようにもなったし、逆にそんな自分も受け入れられるようになりました。

2017年にリリースした1stアルバム『なつめろ』では、三戸さんのまっすぐな歌声が弾けています。

歌手デビューというターニングポイントを経て、三戸さんはさらなる挑戦を続けます。後編では、女優や絵本作家など、三戸さんの多彩な表現に触れていきます。

 

《プロフィール》

 

三戸なつめ(みと・なつめ)
モデル・女優

 

1990年奈良県生まれ。2010年に関西で読者モデルの活動を開始。2015年には中田ヤスタカプロデュースによる『前髪切りすぎた』でアーティストデビュー。2017年1stアルバム『なつめろ』をリリースし、全国9箇所でのワンマンライブツアーを開催。同年12月には絵本作家としてのデビューを果たす。2018年からは本格的に俳優としても活動を開始し、ドラマ&映画『賭ケグルイ』や舞台『鉄コン筋クリート』などに出演。映画『パディントン』では日本語吹き替え声優も務め、2020年に映画『明日、キミのいない世界で』では初のヒロイン役で出演。2020年11月より放送が開始されたNHK連続テレビ小説『おちょやん』では実母役に挑戦するなど、今後も多数のドラマや映画の出演を控えており、モデル、女優、タレントとして活動の幅を広げている。