紙の品質を裏付ける“ペーパーマイスター”の仕事
- 教えて! ペーパーマイスター! Vol.1

1920年の創業当時より、「書くこと」「描くこと」にこだわり続けるマルマン。1950年代後半からは国産のオリジナル用紙「MARUMAN PAPER SERIES(マルマンペーパーシリーズ)」の製造をスタートし、現在では4種類の筆記用紙と9種類の画紙をラインアップしています。用途や使用シーンに応じて最適な紙をご提供できるのは、マルマンオリジナルだからこそ。さらにマルマンではペーパーマイスターが製造された紙の品質を、製品化前にその都度チェックしています。

「教えて! ペーパーマイスター!」は、マルマンのペーパーマイスターである遠藤恒夫さんに、オリジナル用紙や自社製品をはじめ、マルマンのアレコレについてお伺いする企画です。第1回目となる今回は、ペーパーマイスターとして普段どのような仕事を担っているのかを教えていただきました。

マルマンのペーパーマイスターである遠藤さん。

オリジナル用紙はすべてペーパーマイスターがチェック

ペーパーマイスターとはどのような仕事なのでしょうか?

マルマンのペーパーマイスターは、端的にいうと「紙の品質管理担当者」です。製品化前の紙が仕上がる度に製紙会社さんから見本が届くので、マルマンの紙の品質に達しているか否かをチェックしています。

具体的なチェックポイントを教えてください。

マルマンの筆記用紙は、どんな筆記具を使っても「書き味の心地よさ」を実感できる紙です。そのため、シャープペン、鉛筆、ボールペン、万年筆、サインペン、マーカーといった各種筆記具を用いて、「表面の滑らかさ」と「インクのにじみにくさ」を確認。さらに万年筆で文字を書いても「裏面にインクが抜けない」ことが大きなポイントになりますので、さまざまなメーカーの万年筆と複数の色のインクで試し書きを行います。

筆記用紙の品質チェックを行う際に使用する筆記具の一部。

画用紙では品質管理担当の先輩から教えていただいた、「子どもたちが使うことを想定しなさい」という言葉を、肝に銘じています。身も蓋もない言い方かもしれませんが、絵が得意な方はどんな紙に描いても上手い(笑)。しかし子どもは強い筆圧で下書きをしたり、消しゴムで勢いよく消したり、水彩絵の具をたくさん重ね塗りしたりしますよね。だから私も、鉛筆で引いた線を消しゴムでゴシゴシ消して、そのうえに水をたっぷり含んだ水彩絵の具を塗り重ねてみるんです。そして紙の表面が丈夫か、絵の具が裏に抜けていないか、表面がどのくらい荒れてしまうかなどをチェックする。そのような条件のもとでも、マルマンの画用紙はほとんど毛羽立たないんです。

製紙会社さんからはインクの浸透度合いを示す数値なども届くのですが、数字だけをみていては品質が維持できません。やはり最終的には人間の感覚が大事なんです。

鉛筆描きを消しゴムで消した場所に水彩絵の具をのせ、紙の強度や表面の荒れ具合を確認。

改良を重ね、紙の品質を常にアップデートする

なるほど。「この紙の仕上がりでは製品化できない」と判断されることもあるのですか?

もしマルマンが求める品質の紙でなければ、そうなりますね。しかし製紙会社さんとは長いお付き合いですし、マルマンのオリジナル用紙のことをご理解いただいていますから、疑問を感じた場合はすぐに相談に乗っていただき、改善に関して親身に検討してくださいます。製紙会社さんの方でも、私共と同じような紙の品質チェックを行ってくれているんですよ。ただ例えば「新しく発売されたA社の万年筆インクのグリーンを使うと、色が裏へ少し抜けてしまった」といったことがあれば、次のロットで即座に改善します。製紙会社さんと信頼関係が構築されているからこそ、できることでしょうね。

「リニューアル」と大々的に謳うのではなく、日常的に改良が繰り返されているのですね。

そうですね。これもオリジナル用紙ならではの利点だと考えています。製紙会社さんでもノート用紙や上質紙を販売しているので、それを購入して製品化した方が簡単ですし小ロットで生産できるんですよ。だけどその分、紙の値段が高く、商品価格に反映されてしまう。経営的な面でオリジナル用紙にすることのリスクもありますが、それ以上に高い品質を追求できますし、価格も抑えられます。「図案スケッチブック」はA4サイズで税込352円なのですが、これだけ上質な紙でこの価格を実現しているメーカーは、世界中どこを探しても見当たらないかもしれませんね(笑)。

コストをかければ、もっともっと良い紙に仕上がるでしょう。でもそうすると値段も上がり、お客さまに負担を強いることになってしまいます。マルマンの根底にある思いは、「より良いモノを、より安く」。私たちはいろいろなバランスを総合的に判断し、お客さまに最も喜んでいただけるかたちで製品をご提供したいんです。

マルマンのショールームでオリジナル用紙の案内をすることも。

紙への徹底したこだわりがマルマンの強み

遠藤さんをはじめマルマン社員全員が、オリジナル用紙に誇りをもっているのだなということが伝わってきます。

マルマンのオリジナル用紙は当社のコア・コンピタンスです。お客さまに自信をもってご提供できるものですし、「どこにも負けないぞ」という自負もあります。筆記用紙で4種類、画紙で9種類、合計13種類ありますから、お客さまそれぞれで最適な紙を選んでいただけるんですね。

私が思う“いい紙”というのは、「何も考えずに書ける・描ける紙」。つまり「ちょっとかきづらいな」という感覚は、思考や表現の邪魔になると思うんです。子どもたちが画用紙を使ってくれるのなら、元気に楽しく絵を描いてほしい。描いているときに違和感を覚えさせてしまったら、それは一種の裏切りのように感じているんですね。これからもお客さまにご満足いただける紙を、お届けしていきたいと考えています。

 

<プロフィール>

 

遠藤恒夫(えんどう・つねお)
マルマン ペーパーマイスター

 

1971年東京都生まれ。1993年マルマン株式会社入社。営業を10年間担当した後、企画グループ(現マーケティンググループ)へ異動し17年、主に製品の設計を行う。またペーパーマイスターとしてマルマンオリジナルの画用紙や筆記用紙類の品質管理を担当する。