歴史を感じる紙の博物館 「Pam」へ(前編)
- TANTの開発を行う特種東海製紙のものづくりに迫る

独特な風合いや手触りを特長とするファンシーペーパーの一種として、世界でも有数の150の色数をもつ※2019年11月に全200色へリニューアルが決定TANT。日本を代表するグラフィックデザイナー田中一光氏監修のもと1987年に誕生したこのTANTは、豊富な色数と上品で汎用性の高いデザインから、書籍やポスターなど幅広い用途に利用されており、「どんな家庭でも家の中を探せばには1枚は見つかるのでは...」と言われるほど一般家庭に浸透している特殊紙だと言われています。

このTANTの開発・製造を行なっているのが、高度な品質が求められる特殊紙や産業用紙の研究開発を行っている、静岡県の製紙メーカー特種東海製紙(株)です。

 

今回は、静岡県三島の生産工場に隣接する紙のミュージアム「Pam(Paper and material)」を訪ね、最新の技術を活かした、同社の付加価値の高い特殊紙づくりについて伺いました。

前編ではPam所蔵のアーカイブ作品とともに、特種東海製紙(株)の歴史と今を支える技術についてご紹介します。

※後編(TANT開発秘話)はこちら。

PamのロゴはTANTの開発にも携わった田中一光氏によるデザイン

特殊紙の歴史を感じるベーシック・ゾーン

Pam内に設置されている4つのギャラリースペースのうち、ベーシック・ゾーンでは、創業以来の約300種の製品アーカイブとともに、紙の歴史を体感することができます。


<ベーシック・ゾーン> 設計は田中一光氏の愛弟子でもあるグラフィックデザイナー・廣村正彰氏によるもの。 
約300種の貴重な紙がストックされている棚からは、実際の紙を引き出しから取り出して触れることができる。 

この展示スペースには戦前から現在に至るまで、様々な業界や用途のために特種東海製紙(株)が製造した貴重な製品が300種ほど並んでいます。中には今では使われていない技術が用いられているもの、一見紙が使われているとわからないものなどもあり、その多様な活用例とともに、私たちの生活の中に実に多くの紙が溶け込んでいることを実感することができます。

同社がこれら多くの特殊紙を開発してきた背景には、1900年代中盤まで日本国内に流通する特殊紙の多くが海外からの輸入品であり、「国内で欧米に劣らない特殊紙づくりがしたい」という佐伯勝太郎博士(※特種東海製紙(株)の前進である、特種製紙の創立者)の願いでもありました。


2002年日韓ワールドカップの決勝戦で日産スタジアムの上空から花吹雪のように撒かれた折り鶴。滞空時間を長くするため、通常の折り紙よりも薄く軽い同社の製品のひとつが採用された。

東京オリンピックの競技用につくられた標的用紙。撃ちぬかれた箇所から亀裂が入らないよう紙の強度が調整されている。

レミントン統計カードはコンピューターの情報処理インプット用パンチカード。読み取り金属ブラシの摩擦を受けても変形せず、衝撃による紙層のくずれがおこらない特殊で丈夫な紙で作られていた。国の重要科学技術史資料として登録されている

 

紙の可能性を広げる最新技術を知るテクニカル・ゾーン

テクニカル・ゾーンでは紙づくりに欠かせない基本素材と紙づくりを支える技術が紹介されています。 4台の大型タッチパネルや、巨大見本帳など、最新のデジタル機器やインタラクティブ技術を用いた解説でいまを支える技術を学ぶことができます。
<テクニカル・ゾーン> 現在採用している最新技術や環境への関わり方などを紹介している。
 

過去から現在にいたるまでの紙の製造技術に加えて、環境問題への取り組みなどがまとめられています。また、ギャラリー内に設置されたディスプレイでは、紙の製造工程や構造についても見ることができます。


B2サイズの見本帖は移動させるのが困難なほどの大きさ。個性ある紙の表情を実際に手で触れながら感じることができる。
開発目標に設定されている「NaSFA」というスローガン。様々な特殊紙の開発・生産を行う特種東海製紙は透かし技術などの特殊な製紙技術の開発にも取り組んでいるそうです。

 

デザイン事例が並ぶクリエイティブ・ゾーン

クリエイティブ・ゾーンでは、現在特種東海製紙が製造している主な紙や製品の数々を見ることができます。また、現在製造しているファンシーペーパーが発売年の順に並び、全カラーのラインアップが一覧できるファンシーペーパーマトリクスが展示されています。ファンシーペーパーの豊かなカラーは、調成を行う専門のスタッフによって生み出されているそう。 


<クリエイティブ・ゾーン>現在製造・販売されている製品を具体的な採用例も含めて紹介されている。

TANTをはじめ、同社の
ファンシーペーパーを色別で一覧できるカラーマトリックス。
同社社員の方が制作されたという、製紙の工程を解説した模型。

Pamにはこの他にも戦前よりファインペーパーの開発に関わったグラフィックデザイナー原弘氏の作品アーカイブや、製紙にまつわる貴重な資料が並んでいます。また企画展を行うギャラリースペースでは紙にまつわる様々なイベントが開催されており、いまの時代において製紙会社が取り組むべき役割について真摯に向き合っている様子が感じられます。後編では、TANTの開発当時の様子を伝え聞く、同社新規事業開発室・研究開発本部開発第二部長の内藤さんにお話を伺います。