「新しい時代に寄り添う新しいルーズリーフ『PIET』」(後編)
−アートディレクター・平野篤史さんとマルマン ペーパーマイスター・遠藤恒夫さんの対話から読み解くブランドストーリー

2020年9月1日より、マルマンからバインダーとルーズリーフの新しいブランド「PIET(ピエト)」がデビューしました。多彩なデザインと紙質によって新しいアイデアを導き、使い勝手がよく機能的なルーズリーフの魅力を存分に発揮します。

 

前編に続く後編では、PIETのデザインを手掛けたアートディレクターの平野篤史さんと、PIETの品質管理を担当したマルマンのペーパーマイスターである遠藤恒夫さんに、各製品の特長やPIETに込められた想いなどについてお伺いしました。

 

※PIETはマルマンの直販サイト「Creative Support Market」にて販売中。

アートディレクター・平野篤史さん(写真左)とペーパーマイスター・遠藤恒夫さん(写真右)。何気ない会話からも、二人の信頼関係が伝わってくる。

細部までこだわり抜いたデザイン

バインダーのネーミングと色彩は平安時代から伝わる伝統配色からインスピレーションを受けたそうですが、それぞれのデザインの背景についてお聞かせください。

平野:バインダーのネーミングとなったモチーフをそのままグラフィックで表現するというより、色の組み合わせからネーミングが想像できる抽象的なデザインを心掛けました。バインダーで使用している2つの色とリングの色でネーミングを表しています。

 

「SABOTEN(サボテン)」はサボテンの肌を緑色、棘を紫色の四角形、サボテンの花をリングのピンク色で表現。「AMAGAPPA(雨ガッパ)」は黄色いレインコートと、どんよりしたグレーの空、水玉の雨粒。「TOMATO(トマト)」は実の赤色とヘタのように見えなくもない緑色のあしらい。「BARANONIWA(薔薇の庭)」はピンク色の幾何学模様で薔薇のようにみせ、緑色で庭にあるグリーン、リングの青色でフェンスやプラスチックの鉢などを想起させています。「CAPUSEL(カプセル)」はプラスチックや薬といった、どこか人工物的なテイストを出したいと思いデザインしました。「GROUND(グラウンド)」は青い空と土、格子状のパターンは上空から見下ろした大地のようなイメージです。

 

遠藤:細部のディティールまで考え抜かれたデザインになっているんですよ。バインダーはA5縦型とA4横型で若干違うデザインになっていることに加え、バインダーの中のリフィルもそれぞれ異なります。A5縦型には円を書くスケールテンプレートと分度器とポケットリーフ、A4横型には三角定規と雲型定規とポケットリーフといった紙製アクセサリーが付属。リフィルのカラーはバインダーの計12種類ですべて異なり、紙の専門商社として名高い竹尾さんが取り扱う、質の高い用紙を採用しています。

 

平野:バインダーはマットな質感にこだわったので、透明のビニールカバーをかけ、耐久性を高めています。このカバーにはブランド名やルーズリーフの穴の数などのグラフィック処理を施しているのですが、これがバインダー本体のデザインのノイズになっているんですね。このいい意味での“違和感”を楽しんでいただきたいなと思っています。もちろん、カバーを外してもお洒落ですよ。

ビニールカバーに大きく配置されたPIETのロゴが、バインダーの表紙デザインにいい意味でのノイズとなる相乗効果を与えている。

多種多彩なバインダーとリフィルが創造力を刺激する

リフィルの種類も豊富です。

遠藤:はい、A5縦型とA4横型を合わせて計19種類での展開です。筆記用紙はマルマンの既存商品からPIETオリジナルとしてパッケージを刷新した筆記用紙(無地、5mm方眼罫)、画用紙 並口、クリームクロッキー、スクラップリーフドット罫、そしてこれまでルーズリーフ化されていないヴィフアール水彩紙 細目を揃えました。アクセサリー類は「Stencil/Index」、「Stencil/Plain」、「Tracing Envelope」、「Note A5/A6/B6」、「Index」を用意しています。

 

平野:筆記用紙のパッケージは、使い方のイメージがどんどん湧いてくるようなデザインにしています。A5縦型用のリフィルはA4横型のバインダーにも使える仕様なので、好みで選んでいただきたいですね。

好みで選べるリフィル。写真などをスクラップするためのスクラップリーフは、竹繊維で作られた竹紙を採用している。

使う人が楽しい気持ちになれるデザインのステンシル。
ひとつひとつの製品にこだわりが詰まっているのですね。

平野:そうですね。バインダーなんか、ほんと手づくりに近いですよ(笑)。本体は職人さんが手掛けたシルク印刷ですし、計12種類それぞれで挟むアクセサリーが異なるので、すべて手作業で挟んでもらっているんです。つくるのは絶対に大変なはずなんですけど、「クリエイティブマインドを刺激する製品である」ということは、ブランドを立ち上げるにあたっての原点ですから。

 

遠藤:品質管理の責任者という立場から申し上げると、確かに大変でしたね(笑)。アクセサリーを挟む順番は決まっているので間違いがないよう、生産現場では私を含めマルマンのPIET設計メンバーの誰かしらが必ず工場に入るかたちで作業を進めていました。本音をいうと、手間もかかるし、コストもかかる。しかしPIETはマルマンが進むべき姿勢を先導してくれる象徴的なブランドですから、そこは重要視するべき点ではありません。大切なのは、いかにお客さまへ新しい価値を提供できるかなんです。

12種類のバインダーそれぞれで異なる、リフィルの色や質感も楽しめる。

世代や性別を問わず「描くことの楽しさ」を届けていく

PIETを通じて届けたい想いとは?

平野:近年、「STEAM教育」と呼ぶ教育方針が注目を集めています。STEAMとは、Science(科学)、Technology(技術)、Engineering(ものづくり)、Art(芸術)、Mathematics(数学)の5つの単語の頭文字を組み合わせた造語で、文系、理系に関わらずこれらの領域を重視した教育を行い、幅広い分野で新しい価値を提供できる人材に育てていきましょうといった内容です。ポイントは0から1を生み出す人が求められているということ。PIETはSTEAM教育に共感するところがあって、自分たちの身の回りにはさまざまな可能性があるんだよ、と提示していけるブランドになるといいなと思っているんです。例えば画用紙やヴィフアール水彩紙のパッケージには、絵の具を大胆に撒き散らしたような絵を用いているのですが、色だけでこういう表現ができるんだといった気付きを与えられるかもしれない。使い方は固定していませんし、どんな風に使うかを考えるのは人それぞれなんです。

 

遠藤:まさに平野さんが仰る通りで、PIETはユーザーさんに楽しんでいただけるブランドになったなと自負しています。バインダーのデザインはもちろん、ルーズリーフのリフィルも多様ですので、趣味やビジネスの場においてなど、さまざまなシーンでご愛用いただけると思うんですよ。

 

平野:一見とっつきにくそうな方でも、打ち合わせでPIETを出したら「おっ!」って感じるじゃないですか(笑)。周りから見たらそういったギャップも楽しいですし、ユーザーさんご自身も楽しいと思うんです。僕はアイデアのカケラを生み出すために描くことが多いんですね。PIETはルーズリーフなのでいろいろな種類の紙を挟めますから、そういったところからも新しい発想に繋がっていきやすいのではないかなと。

 

遠藤:そうなんですよ。やはりルーズリーフとバインダーのいいところは、自分仕様にカスタマイズできる点なんですよね。私は仕事柄、打ち合わせの内容やスケジュールを書き込んだり、思考を整理するために浮かんだ物事を箇条書きにしているのですが、手帳、業務用のノート、ランダムに何でも書くノートなどに分けていると、バラバラになって結局よく分からなくなってしまうんです。マルマンではルーズリーフダイアリーも展開しているので、スケジュール帳と用途別にしていたノートを1冊にまとめることもできる。これまでルーズリーフを日常的に使用していなかった方にも、PIETを享受していただけたら嬉しいですね。

 

平野:僕は美大出身なので、学生時代からマルマンさんのクロッキーブックやスケッチブックを愛用していました。マルマンさんのイメージは質実剛健。紙へのこだわりを真摯に追求されている印象があります。2020年で創業100周年を迎えるそんなマルマンさんが、PIETのようなチャレンジングなブランドを提案しているって、非常に大きな試みだと思うんですよ。アートやデザインはこれからますます必要とされる時代になるはず。ユーザーのみなさんのクリエイティビティを刺激するブランドとして、PIETには育っていってほしいですね。

 

《プロフィール》

 

平野篤史(ひらの・あつし)

アートディレクター/グラフィックデザイナー/アーティスト

 

1978年神奈川県生まれ。2003年多摩美術大学美術学部グラフィックデザイン学科卒業。株式会社ドラフトを経て2016年にデザインスタジオAFFORDANCEを設立。

主な仕事:ブランディング、CI、VI計画、サイン計画、プロダクトデザイン、パッケージデザイン、イラストレーションなど、グラフィックデザイン、アート制作活動を基軸に活動。

主な受賞歴:TDC賞、JAGDA新人賞、経済産業大臣賞、SDA賞など。多摩美術大学准教授

http://affordance.tokyo

 

 

遠藤恒夫(えんどう・つねお)

マルマン ペーパーマイスター

 

1971年東京都生まれ。1993年マルマン株式会社入社。営業を10年間担当した後、企画開発部へ異動し17年。ペーパーマイスターとしてマルマンオリジナルの画用紙や筆記用紙類の品質管理を担当する。