「描いたビジョンを形に」
― ヤッホーブルーイングのファン作りを支える木村壮さんのノートとの向き合い方(後編)

近年日本国内でも人気が高まり続けているクラフトビール業界のトップメーカーとして、独自のファンマーケティングや社風などで注目を集めているのが、「よなよなエール」でお馴染みのヤッホーブルーイング。書く/描くひとのストーリーに迫るインタビュー第3弾となる今回は、同社を情報システムの領域で支える、キム2(※1) こと木村壮さんです。

デジタルとアナログツールの使い分けについてご紹介した前編に続き、後編では木村さんがこれまでお仕事のなかで試行錯誤してきた「書く」ときのスタイルとこだわりについて伺いました。

(※1)スタッフ全員がニックネームで呼び合うという文化も、ヤッホーブルーイングの特徴の一つ

 

「書くことと考えることはリンクしている。」

前回はデジタルとアナログのツールの使い分けについてお話ししてくださいましたが、ここからはアナログな「書く」部分にフォーカスしてさらにお聞きしたいと思います。木村さんは社内でも無類の文具好きと伺いましたが、選ぶ際のポイントはありますか?

筆記具を選ぶ際に心がけているのは、考えることを邪魔しないものかどうか。いまの仕事では考えることと書くことが直結しているので、考えるスピードと書くスピードがだいたい同じくらいなんです。そうすると重くて疲れたり、考えるスピードに書く方が追いつかなくなったりするとストレスになってしまいます。なので、考えるスピードにリンクできる重さの適度なモノなど、疲れずに書ける筆記具を選ぶようにしています。ペンはなんとなく自分に一番合うものを分かってきたので、最近はそのペンに合う紙はなんだろう?と探し続けていますね。

 

デザイン性よりも、重さや書き味などの使いやすさを重視するという、木村さんこだわりの文具。

なかでもマルマンのMnemosyne(ニーモシネ)については非常に書き心地がよく、しばらくA4横書きの方眼罫のタイプ(N180A)のノートばかり使っていました。今は、セミナーや勉強会で聴いた内容をノートにアウトプットするために使っていますが、やはり万年筆のインクが裏抜けせず、書き心地が良いところが1番のポイントです。また後々ファイリングして残しているので、保管しておくにもMnemosyneのようなコシのある紙は重宝しています。

逆にメモ用紙はすぐに捨ててしまうことが多いので、裏紙のようにさらっと書ける紙を使っています。

 

保管性の観点から、紙質重視でチョイスしているというMnemosyne。中でもマス目を作成しやすい方眼罫のタイプが好きだとか。
メモは捨ててしまうんですか?

そうなんです。以前はメモもノートにとり保管していた時期があったのですが、残したメモをあまり見返していないことに気づいたんです。ノートや資料をまとめる過程で必要な情報はアウトプットに抽出されますし、その時、考える為に書いているんだということに気づきました。割り切ってメモは捨てていくようにしてから、整理が上手くできるようになりましたね。

 

思いついたことをすぐに書き留められるよう、メモパッドは必需品。不要なメモはすぐに捨ててしまうという潔さも、木村さんならでは。
木村さんの「書く」スタイルについて、もう少し教えてください。

日々の課題やアイデアが、日常のふとした時間に頭に浮かんでくることはありますよね。それを忘れてしまわないよう、ブロックメモや情報カードなどの小さなメモに書き残すようにしています。後でそのメモを振り返り、ノートにまとめながら企画を深めていくので、このメモたちも捨てるものですね。

スケジュール管理にもノートを使っていて、他のメンバーとの共有ではGoogleカレンダーを使っていますが、自分の週間予定やtodoなどをまとめて書き出すためにアナログなノートを使っています。

案件の管理にはルーズリーフを使っていて、内容や規模が大きくなったり、逆に案件ごと無くなったりしても対応できるようにしています。使い方のルールとしては、進んでいるものをどんどん前に出していきます。そうすると、後ろにズレ込んでいくものはほとんど触れてない(=動いていない)案件だということが自然と可視化されるので、だいたい1週間位で動いていない案件にテコ入れしたり、必要性がなければ消したりという作業をして滞りなく進めるようにしています。

木村さんが愛用している、プロジェクト管理用のルーズリーフ(左)とアイデアを整理するために欠かせないメモパッド(右)。目的ごとに使い分けがしっかり定義されているからこそ、迷いや躊躇なく書くことが可能に。

 

時間をかけて作りあげてきた土台をもとに、これからのビジョンを形に。

これまでの仕事の中で感じた、書くことと考えることの繋がりについて教えてください。

一昨年前から、 “お客様のファン化”のための仕組み作りの一環で、私が主導となってあるシステムを作ったんです。ただ、それを実際に活用するマーケティング部門とは全く目線が合っておらず、あまり上手く活かされていない時期が続きました。そこで計8部門の責任者が集まり、作ったシステムを「そもそもなぜ作ったのか?」「どういう風にしていきたいか?」という根本的な部分を議論した場が非常に印象深いです。具体的には、ホワイトボードや紙を使いながら、みんなが描いている将来ありたい姿とか、戦略的な部分を、実際に皆んなで書きながらすり合わせていきました。結果として、その時議論したことが会社のマーケティングとしても大きな柱の一つになると合意ができ、現在は大きくまとまった方向性のもとで、それぞれの部署が何をやるべきか?実行していくフェーズに移っています。

最後に、今後はどのような仕事をしていきたいですか?

自分たちでは、攻めの情報システムという言葉を使っているんですけど、いまも関わりが増えているマーケティングをはじめ、社内の別業務に首を突っ込んだ提案をやっていきたいなと考えています。また個人的には文房具が大好きで、通信販売などでお客様向けのグッズなどの製作も積極的に行なっている環境を生かして、いつかヤッホーブルーイングのグッズを作れれば良いなと考えています(笑)

ヤッホーブルーイングに入社して3年になる木村さんですが、入社当初はなかなか自分の提案が他のメンバーに響かなかったり、時には案件自体の目標から考えなければならないような環境に戸惑いもあったと言います。そんななか自身の視野・視座を高めていく過程で、「考えること」を増やし、思考を整理するために自身には「書くこと」がマッチしていることを感じていったようです。

これからもデジタルとアナログの様々なツールを使い分け、ヤッホーブルーイングのファンづくりを支える情報やシステム部門を牽引していきます。